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第三回 他人(ヒト)の話を聞け!
私こと春日晴男の「東のエデン」制作現場におけるアルバイト生活は、早いもので一週間が過ぎようとしています。
この一週間で、パソコンに向かう私こと春日晴男の、キーボードタッチも様になってきました。
カタカタカタカタ……。
パソコンに向かっていると、何だか仕事をしている気分(悦)
さて、今回は「東のエデン」脚本会議のお話しです。
脚本。
にわか脚本家志望者は数多くとも、実際に脚本を映像化する作画志望者は、脚本家志望者のそれよりも少ない、というのがアニメーション業界の悩みの種なのだそうです。
真にすぐれた脚本とは、最終的に、物語を映像化するスタッフの、イメージの源泉とならなければならない。
しかし、「文字」は誰もが書け、文章の良し悪しは、一見して判別がつきにくいもの。
一方、絵を描くという生業は、その絵が上手か否か、一目で判ってしまう、まさに弱肉強食の世界。
絵描きこそが求められるアニメーション制作現場において、私こと春日晴男の拝領した”文芸進行”なる仕事は、実に曖昧模糊とした、形の無い生業なのです。
「アニメーションがデジタルになって、省略していた部分の文字情報(看板など)が見えるようになってから、こういう(文芸)のが必要になったんですよ」
演出の河野さんが仰っていました。
パソコンに向かってキーボードを叩くなんて、幼稚園児にでもできる。
私こと春日晴男、改めて、自分が何を為すべきか、考えざるを得ませんでした。
そして、某日。
「東のエデン」の脚本会議が開かれました。
私こと春日晴男、記録係として脚本会議に臨みます。
「東のエデン」は2007年の夏ごろから企画がスタートし、監督とプロデューサーとの間で、テーマ、世界観、キャラクターについて議論が重ねられてきました。
脚本家チームが本格的に集ったのは、2008年1月から。
それから約一年、毎週、水曜日と土曜日の二回に分けて、毎回、15時間にも及ぶ、緻密な脚本会議が進められ、脚本作業はいよいよ、最終話に突入しています。
神山監督の脚本会議の特徴は、何と言っても、「他人の話を聞く」。これに尽きます。
このシチュエーションで、キャラクターがこんなセリフを吐くだろうか?
自分に置き換えてみたらどうだろうか?
他の話数とこのキャラクターの心理変遷は矛盾していないだろうか?
ただ闇雲に会話しているだけで、時間を無駄にしていないだろうか?
よりドラマチックなシチュエーションを発明できないだろうか?
神山監督は、出席者から出てくるアイディアや問題提起を一つ一つ真剣に取り上げ、検討していきます。
印象的なのは、神山監督が他人の話を聞いているときのまなざし。
質問やアイディアを真摯に受け止め、一度自分の中で消化して、内に蓄積された議論からの中から、最良の解決策を提示し、脚本家の方々に提案していきます。
脚本家の方々も、自分のアイディアを押し売りするのではなく、じっくりと他人の話を聞いた上で、そのアイディアをどう発展させられるのか、または代替案を出して議論していきます。
パソコンに向かって文字を書くのが、脚本家の仕事ではない。
目指すべき作品像に一歩でもにじり寄るために、頭を絞り尽くして議論を重ね、ト書きと台詞に落とし込んでゆく。
これこそが、脚本という仕事の醍醐味なのだと言うことを、私こと春日晴男、思い知った次第です。
監督「何十遍も他人としゃべり倒して、はじめて物語としての強度が上がる」
何者でもない僕は、他人の話をとにかく聞くところから始めることにしたのでした。

「東のエデン」脚本ライター陣は、佐藤大さん、伊藤ちひろさん、菅正太郎さん、岡田俊平さん、福島直浩さん。
2009年2月17日 10:12
POSTED:東のエデン管理者

第二回 イチローに、どうやったら良いプレーをしてもらえるか?
アルバイト初日。
私こと春日晴男は、「東のエデン」プロデューサー・石井朋彦氏の紹介で、監督・
神山健治氏と面会しました。
神山監督は「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズ、「精霊の守
り人」等を手がけたアニメーション監督です。
「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」において「笑い男」「個別の11人」
という、現代社会の映し鏡とも言えるエピソードを生み出したあの、神山監督!
「精霊の守り人」で、女用心棒・バルサとチャグムの旅路を通して、世界と真摯
に立ち向かい、生きてゆく事の大切さを描いたあの、神山監督!!
菅野ようこさんのサントラを聞きながら、ママチャリで大学に通っていた私こと、
春日晴男。
初めて女性にフラれた時、川井憲次さんのサントラを聞きながら、寒空を、涙が
枯れるまで裸足で走り続けた私こと、春日晴男。
……感激です(号泣)
神山監督の三作目のテレビアニメーション作品が、現在制作中の「東のエデン」
です。
石井「緊張されていますか?」
私「緊張されています」
石井氏の質問に、私は軽妙に答えました。
石井氏の、怪訝な顔が気になります。
私は、石井氏とともに神山監督の机にお邪魔しました。
私「新人の春日晴男と申します。本日付でこちらに配属になりました。以後、お
見知りおきを・・・」
監督「神山です」
知っています……と頭の中で返事をしつつ、緊張のあまり、それ以上会話が続
かない……。
石井「どうですか、こいつは」
神山「まあ……真面目そうな男ではあるな」
ありがとうございます、とは言えず、私は恐縮しきって頭を下げました。
今年43才になるという神山監督は、鋭くも、少年のようにキラキラと輝くまなざし
で、私こと春日晴男のよどみきったニート的眼(まなこ)を見据えると、こう言いま
した。
神山「イチローにどうやったらいいプレーをしてもらえるか? まずはそこからはじ
めてみてください」
私「……?」
神山監督との会見は終りました。
石井氏から、「文芸進行」という肩書きで、神山監督と現場の、主に文芸(シナリ
オ・本編内に登場する様々な文字要素)のサポートをするように……と命じられた、
私こと、春日晴男。
私は、こんなすばらしい職場で働く機会を与えてくれた平澤氏に感謝しつつ、強烈
な不安に襲われていました。
どこのウマの骨とも知れぬニート的私を雇おうと決断した神山監督をはじめ、プロ
ダクション・アイジーに、いったい自分はどう貢献できるのであろうか?
「イチローにどうやったらいいプレーをしてもらえるか? まずはそこからはじめてみ
てください」
私は神山監督の言葉を反芻しました。
春日晴男、文芸進行としての仕事が、次回から始まります。

2009年2月13日 10:25
POSTED:東のエデン管理者

第一回 働かざる者食うべからず

2009年2月11日 10:00
POSTED:東のエデン管理者

序・春日晴男(かすが・はるお)とは何者か?
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズや、『精霊の守り人』で、
エンターテインメントと深遠な人間ドラマを展開してきた、監督・神山健治。
漫画『ハチミツとクローバー』(集英社刊)『3月のライオン』(白泉社刊・ヤングアニマルにて連載中)で男女問わず幅広い層から支持されている漫画家・羽海野チカさん。
このふたりがタッグを組んで、この春、新しいテレビアニメーションが始まろうとしています。
その名も、「東のエデン」。
今よりも少し未来の日本。
この国の”空気”に戦いを挑んだ、ひとりの男の子と、彼を見守った女の子の、たった11日間の物語です。
さて。
「東のエデン」の末席に、春日晴男という大学生が登場します。
「春日晴男日記」は、本編から飛び出した私こと春日晴男が、テレビアニメーション「東のエデン」の制作過程を、日々紹介していくブログです。
監督・神山健治の陣頭指揮の下、「東のエデン」を制作するのは、東京・国分寺市に拠点を構える、プロダクション・アイジー。
制作現場で、「東のエデン」は、どのように企画され、いかにして作られているのでしょうか?
私こと春日晴男が、大学の春休み(ちょっと早いけど……)を利用し、制作現場にアルバイトしして参加しながら、スタッフのコメントや現場風景などをアップしていく予定ですので、ご期待ください。
2009年2月10日 15:08
POSTED:東のエデン管理者
















